昨日、掲題の勉強会に参加してきました。
JASと関連して、貴重な発表が南信バイオマス協同組合の井口さんからありました。最後の方で紹介します。
井口さんの発表内容と私が今回出席した理由が重なりました。また貴重なエビデンスをご紹介いただきました。
昨日、出席した理由は、JAS制度設計を進めていく際に、当初案の段階からペレットストーブディーラー、メーカー・輸入元、ユーザーの視点を盛り込むためです。ほぼ制度設計が出来上がった後のパブコメ段階では根幹に関わる意見が出た場合に反映が難しくなるかもしれないので、早めに業界の意向を伝えておく必要があります。制度発足に向けての調整、集約をされている日本ペレット協会(JPA)さんに、はっきりと「ストーブ屋サイドはこういう意向だ」と認識しておいていただく、という点にあります。しかも、公の場で。
後になって「俺には声がかかってねぇ。認めねぇ」というのはダメですから。個人的な関係を利用して意見を押し込むのもダメ。
私が業界を代表しているわけではありませんので、根拠を明示して意見することに努めました。
木質ペレットの品質規格は、国内では現状ではJPAとペレットクラブによる自主規格があります。民間のもので、規制ではありません。どちらもこの数年、先行する欧州規格(以降、EN規格)とそれをベースにした国際規格(ISO)と整合性がある規格に更新しようという動きがあります。
これらの詳細については両団体のホームページをご参照ください。
補足
JAS化に向けては、JASはそもそも「日本農林規格」ですから、管轄は農水省で、その農水省から委託を受けて、原案を取りまとめているのがJPAになります。
ペレットクラブは、消費者団体としての位置づけですが、かつては日本ペレット工業会(PSJ)が存在しなかったこともあり、ペレットの品質規格の自主基準の策定に留まらず、ペレットストーブの規格や設置に関する推奨基準の策定や設置講習会も担っていました。
初見の方は、この辺りの各団体の性格がわかりにくいと思います。
PSJの発足のきっかけは、2020年に予定されていた住宅の省エネ規制にて、ペレットストーブが省エネ機器としての認定されることを国土交通省から打診されたことを受け、国と交渉するペレットストーブ業界の窓口を一本化し、見解を取りまとめる必要から発足したのがPSJです。その事務局を数年間ペレットクラブが担ってきたという経緯 (現在は完全に分離) があります。
その肝心の省エネ規制が見送られてしまい、残念な思いがありますが、ペレットストーブ普及に向けて、業界として整備すべきことを続けている、という状況です。
補足 ここまで。
JPAの現状の規格には、重要な項目が省かれています。測定が少々難しく、また測定方法の定め方に難があるからです。何が言いたいかわかりませんね。スミマセン。省かれている項目は「DT(Deformation Temperature)」”灰軟化点”ともいいます。JISの測定方法とISOのそれで重要かつ決定的な違いがありまして、そのまま項目に採用すると少々面倒な問題をはらんでしまう、という背景があるように想像しています。(追記 ペレットクラブではペレットの品質規格がISOに更新されたことを受け、ISO規格を推奨することに変わりました)
ますます何が言いたいかわかりませんね。スミマセン。
要するに、日本では木質バイオマスが普及しておらず、ゆえに存在も想定していなかったので、それらの品質評価のために必要な規定自体がないから、です。他の流用で済ませてきたが、どうもそれでは不適であることがわかってしまった、というものです。JISの規定が木質を想定しておらず、その規定に則って計測すると測りたい項目の性状を反映できない、ということなのです。
これはどこかで聞いた話と似てますね。私が進めている排気筒の検証も類似です。ま、パイオニアになれる楽しみはあります。儲かりませんが。
灰の性状評価のためには、灰をどうやって作るかという規定が必要になります。各々が勝手にやっていたのでは比較可能な評価ができません。単純にストーブの灰受けに溜まった灰を評価するのでは制度としてはNGなのです。
日本では石炭の灰を評価する規定はJISでは、生成させる温度が815℃。木質についてはありません。一方、EN、ISOでは、木質の灰生成温度は550℃の決まりがあります。
温度が違うと灰の生じる量が変わってしまいます。それをこれまでは補正して評価してきたわけですが (詳しくはJPAの文書「改正版品質規格の解説」の「灰分」の項 ) 、実は、クリンカー生成に関わる成分が両者で異なってしまう、という事実が最近になってはっきりわかってきたのです。
それについては過去の拙ブログでも紹介してきました。要はDTを下げる成分であるK(カリウム)が飛んで減ってしまうようなのです。量だけでなく質も変えてしまう?
815℃ではクリンカーができにくい灰になり、550℃だと出来やすい灰になる。クリンカーの出来やすさは、DTで評価できる。
そういうことなのです。
木質後進国である。日本の現状は。
こうした現象に私は比較的早くから気づいていたので、各所で叫んでいたのですが、なんせ一ペレットストーブ販売店に過ぎない立場ですからエビデンスが不十分でどこまで真剣に受け止めてもらえていたのかわかりません。
それで!今回の井口さんの発表には、まさにこの主張を補強できるありがたい検証結果がありました。
話を戻します。
昨年段階で、JAS規格にDTを定める際に灰生成温度は815℃でOK、補正するんで、という話があり、それではダメだと考えまして、昨年秋のJPAの報告会に意見するために参加したところ、「550℃にします」と変わっていたので一安心でした。その際も、論点は”量”であって、”質”ではありませんでしたので、いちおう、意見はしました。量だけじゃなくてクリンカーのでき方に影響するので550℃じゃないとダメだ、と。私がこの発言をしたのもおそらく忘却されています。
DT項は、ENでは1200℃以上、ISOでは測定し、値を記載 となっています。よってISOに国内規格を合わせて行くのは間違っていないように一見すると思います。
ENとISOではペレットを成形する際の助剤の添加を認めています。ただし、添加してよいのはコーンスターチなどの有機物に限っており、無機物は認められていません。
欧州の樹種では日本のスギのような性状を示すものがなさそうです。だから成形用の添加だけ考えれば十分で、無機系でクリンカーを抑える、という発想をする必要がありません。
しかし今後、エネルギー植林が広がると事情が変わってくるかも知れませんよ。エネルギー植林木のエミッションは、どうもこれまでのSPF系のカスケードとは違いがありそうなので。
昨今の研究、文献で、クリンカーの出来やすい杉材でクリンカーフリーペレットを作る際には、無機物であるMgO(酸化マグネシウム。”マグネシア”ともいう)の添加が劇的に効果的であることが報じられました。
この一連のことも過去の拙ブログで詳しく書いているので省きますが、単純にISOに合わせてしまうと、無機の添加物を認めない規格になってしまいます。ISO規格で輸出することは現状は考えられませんし、なにより杉を有効に使っていくために、欠くことのできない手段となる可能性があります。
ISOの木質ペレットに関する規格策定には、現状では日本はオブザーバーなので、ここに参画するためのカウンターパート(国内組織)を立ち上げる動きがあります。もしそのために現状のISO規格を丸呑みしたり、重要な議論がなされないまま制度が確定してしまうとしたら何のための制度づくりなのか、ということになってしまいます。
無機添加を認めない規定が定まるのは避けなければなりません。少なくともこの先数年、代替手段がみつからない限りは。
これまでも様々な会合の場でで、日本の規格はISOに合わせることを必須とすべきではないという主張とその理由について強く発言してきました。その線で、日本ペレットストーブ工業会(PSJ)の意見も概ねまとまっていると言ってよいかと思います。
今年6月のPSJ総会では、木質ペレットのJAS化に向けた議論の過程で、PSJの参加を要請するという方向性が合意されました。また、ISOカウンターパートの発足にはPSJは関与するべきであるし、声がかかって当然だし、エンドユーザーに最も近い立場で現場で何が起こっているのか、起こる可能性があるのかわかっている私たちの業界が関与せずに規格なり団体なり日本の立場なりが決まるのはありえないだろう、と。これをPSJの総会で私が強く主張し、議決文書に盛り込まれました。
ペレットなどの木質バイオマスエネルギーの普及を、よりよくしていくために、品質規格がたいへん重要です。安心して使える高品質で、リーズナブルなペレットをユーザーに供給していく責務があります。
現状では、はっきり言いまして、木質関連産業のサプライチェーンは補助金漬けの状況です。上流側では森林経営計画に基づく間伐(人件費)や加工機械の導入や、地球温暖化対策で森林を二酸化炭素の吸収源とするための諸々の事業で降ってくる補助金(これが大半のペレット製造プラントの補助金となっています)。下流でもペレットストーブそのものの購入費用に補助が出る地域もあります。
補助が厚すぎて、将来に渡り経済的に合理性のある産業になりそうになく、各地から選出される政治家と集票力のある圧力団体の要求で、採算を無視した非合理な姿となっています。それゆえに良いペレットを作る!というモチベーションが低いのだと想像するのはひねくれすぎでしょうか( ちなみに、ペレットストーブ業界は政治的には無力です。規模が小さすぎて)。
実はこの背景には、気候変動・温暖化対策をごまかしとしてしかやろうとしてこなかった国策が居座っていて、美しい物語もとい、(見かけ上)二酸化炭素吸収できるちょうどよい道具として森林吸収に頼ってきたという不都合な真実もあります。
これを変えていくための不可欠な方向性が、適正な林業規模で、木質エネルギーのカスケード利用であり、特に日本においては、杉材の副産物(ごみ)のエネルギー利用です。
しかし、何度か書いてきましたように、杉がペレットの原料としては、ありえないほど不適であるというこれまた想定していなかった”不都合な真実”が、エビデンスをもって議論されるようになったのは、まだ数年のことなのです。
そうした状況を少しずつでも変えていくために私も奮闘しているつもりです。
今回、出席してみてよくわかったのは、一連の規格策定の各段階でPSJは参加してもらわなければならないという認識が事務局サイドがお持ちだということで、一安心です。残念だったのは、「ペレットストーブ業界はISO完全踏襲ならOK!」という考え方だと事務局サイドに認識されていたことです。
おいおい、それいつの話だよ。「今は違いますから!」とお伝えしてきました。
燃料規格については色々言いたいことがあるのですが、もう一点、少々異なる角度から。
ISOは、規格項目の羅列ではなく、”マネジメント・システム”としての側面があり、むしろそっちが重要かもしれません。
ペレットの品質とからめますと、製造者が認証を取得する際に、特に品質の良い”チャンピオン”でクリアして、しかし実際のルーティンではそのレベルの品質の物は供給されなかったり、変動が大きかったりしたのでは困るのです。
「あのー、今回のペレット変な燃え方するんですけどー」という電話を受けて対応するのは私たちです。(そういう経験をしています 泣)
だから、一定上の品質の維持をどのように担保するか、という策と、事後的な検証ができる仕組みづくりが必要になります。
いちおう私は各ペレット生産者に、品質維持を確認できる実用上の手段をお伝えしています。物性以外、特にDTに相当する性質をどうすればロット単位で簡易に短時間に判定できるか、という確認方法です。実用上ですので、公的なものではありません。
だいぶ長くなってしまいました。次の話題に移りましょう。
南信バイオマスの井口さんの発表は「バイオマスガス化発電のための燃料規格の定量化について」というものでした。中外炉工業の笹内さんと東京農工大学の堀尾先生と井口さん連名でしたが、今回出席されたのは井口さんのみ。
どうでもいい話ですが、私が学部生の頃、堀尾先生から流動床炉についての講義を受けたことがあります。私自身は卒研はセラミックス材料化学の研究室で、扱ったのはジルコニアに混ぜものをして脆性を変えるというテーマ、でした。ZrO2-CeO2-Y2O3の三成分系を結晶成長の段階から異なる物性のZrO2化合物で被覆して物性を検討する、というものです。当時は実は私はプロ格闘家を目指すというふざけた学生で不真面目だったのですが研究は面白かったので意外としっかりやりました。研究室にトレーニング用のバーバルセットを持ち込むのを許してくれるという寛容な指導教官に恵まれました(笑)。マックス・プランク研究所の客員研究員のご経験もある野間先生にご指導いただきました!
だから、無機系のことは何となく勘が働くし、測定方法についてもだいたいわかります。「クリンカー生成はコントロールできるはずだ」と当初から確信していたのも、学生の頃の感覚が多少なりとも残っていたからです。
閑話休題
井口さんがご自宅でペレットストーブをお使いで、そのストーブを使ってペレットの違いによるクリンカー出来の違いのテストをされた、という紹介がありました。
長野県のペレットは、クリンカーのできにくいマツ系ばかりなので、スギ地域の関係者の状況がなかなか伝わりません。井口さんはよくご存知で、今回のテストのためになんとか県内でスギを探してペレット作ってテストしてみた、と。
残った灰の量がだいぶ違う写真が紹介されました。
ついで、両者の灰でDT測定してみた、と。これがメッチャ面白い話でした。
カラマツペレット灰のDTとスギのそれ、どっちのDTが高かったと思います?クリンカーのできにくいのが高温になります。ガラス化しにくいわけなので。
なんと、スギ。
え?
まじすか?
俺の仮説、間違ってる?
依頼先が取った測定方法がJISで、灰生成を815℃で行い、そこで灰をふるいにかけ、塊を除いてDT測定した、と。
なので、DTを下げる成分が、主に塊の方に移行したかトラップされたのであろう、と。固まりにくい灰だけ使ってDT測ったんだから当然の結果です。
理由がわからなくて堀尾先生に聞いたそうです。
なるほどね~
メッチャ面白くないですか?この話。
だから現状のJISではダメなんですよ。木質用になってないんだから。
加えて、今回比較したカラマツ、スギの灰の無機成分の組成の比較をした、と。
この文献が、ホント、ないのです。ずっと探してきました。
海外の文献でも部位や草本との比較はあっても、針葉樹の樹種同士の比較のものは見つかりません。国内の文献はほぼ皆無。無機以外の天然の有機化合物にフォーカスしたものばかり。
だから、これまで定性的な検討がほとんどなされていなくて。
それでこの比較、ちょっと見てみてくださいよ。
これ見ればわかりますな!
両者の組成が違い杉。一見しただけで、仮説が立てられるでしょ?このデータにもっと早く出会っていれば。
これらの定性的な比較検討がこれからますます必要です。
ここで、MgOの絶対量は問題ではないことがわかります。マツのMgOは少ない。CaO-MgO-SiO2-K2Oの混合次第で性質が決まっているだろうという私のかねてからの仮説が確信に近づきました。
あとは、産地ごとの組成の違いや育成方法による違いなども見ていけると面白いでしょうし役立つでしょうね。
さっきエネルギー植林について少し触れたのは、この辺りのことと関係します。ついでなのでもう少し書いておくと、ペレットストーブの排気(エミッション)はそもそも薪に比べれば相当にクリーンですが、灰分が増えるとエミッションが悪化する傾向があることがわかっています。理由は、無機成分(特に硫酸塩)を核にして炭化水素が成長しPM、ススになるわけですが、Kは飛びやすい上に硫酸塩にもなりやすいのでいちおう(研究者は)気にしておいた方がよいかと思います。Mgも硫酸塩になります。それが一般にいう”苦土”ですが。肥料で使われる苦土石灰の苦土(Mgは光合成を担う酵素の活性中心に存在)。だから、Mgが効くといっても硫酸塩である苦土を加えるのはNGですし、そもそも硫酸はペレット規格の規制項目です。私は酸化物であるMgOがいいと思いますが、不溶性なのでペレット原料への混和をどうするか、という課題があります。粉で混ぜるか懸濁液にして吹くか?水溶性の方が扱いがはるかに楽です。炭酸塩か水酸化物、はたまた金属Mgを使うという方向性もあるかも。還元させて酸素を結合から外すとなるとLCAでの評価も必要になりますね。
最後は少々一般向けから離れてしまいました。スミマセン。